LOGIN「うわぁぁ!もう2人ともなんでこんなに強いのよぉ!」
この2人の衝突に巻き込まれたくないミーナは建物の陰に避難した。 2人は剣を交じり合わせながらお互いを褒めた。 「俺の双剣を直で受け止めた人はもしかしたら君が初めてかもしれないね。」 「お前も、俺の剣を受け止めるとは中々だな。」 「それは光栄だね。じゃあこれはどうかな?」 カイルは一旦グレンから離れると横一直線に2つの剣を振った。 するとグレンのそばにあった建物が斬れて上からぐずれ落ちてきた。 その建物の残骸を刀で真っ二つにし、再びカイルに近づこうとした。 「俺がこんなヤワな攻撃でダメージを与えれるわけないだろ。」 そしてカイルに斬りかかろうとしたその時。 「…!?なんだ!体が動かねえ!」 突然グレンの体が斬りかかろうとしたポーズから停止した状態になり、どんなにあがいても動かせなかった。 「分かってるよ。君に小細工は通用しないって。でもね、俺には最強の影の領域があるんだよ?」 よく見るとグレンの足元にはカイルが広げた円状の影の領域に入ってしまっていた。 「俺の影はいわゆる絶対領域だ。君はこの影からどう逃げ切る?」 カイルはそのまま剣を上から振り下ろそうとした。 「絶対領域か。なるほど、確かにこの魔法は並の人間じゃ手も足も出せねえな。だが…」 するとグレンの足元から光が漏れた。 「俺は並の人間じゃねーんだよ。」 その瞬間、グレンの足元の光が強くなった。 光が強すぎるため、グレンの足元だけ影が消えてしまいその間にグレンは空間移動で領域の無い所に移動した。 「うっ!…眩しい…!」 「隙だらけだ!」 眩しさで目を閉じたカイルにグレンは高速の蹴りで建物の壁まで吹っ飛ばした。 吹っ飛ばされたカイルは口から血を吐き捨て咳き込んだ。 「ゲホ…ゲホ…まさか俺の領域を抜け出すとは…」 「俺にそんな単純な魔法は通用しない。どうする?まだやるか?」 「まさか!俺もそうと分かれば本気を出してやるよ!」 するとカイルの双剣が影を纏うと剣が黒く変色した。 「黒帝剣技!蛇貫!!」 そう言って剣を振ると剣から二体の影で出来た巨大な蛇が高速でグレンに向かって襲った。 あまりの速さに光魔法が追いつかなかったグレンはそれを刀で受け止めようとした。 しかし、影の蛇の威力が強すぎるため力で押し返されてしまい、そのまま後ろに吹き飛ばされた。 「ぐわああ!!」 影の蛇は吹き飛ばしても攻撃を止めず、まるで生きているかのようにグレンに再び襲いかかる。 「くそ!まるで生きてるみたいだ!」 影の蛇を刀で軌道を逸らそうと弾くが何度弾いても襲ってくる。 「くそ!黒炎よ、吹き飛ばせ!」 グレンは呪文を唱えると体の周りから黒い炎が噴射し影の蛇は形が崩れ、カイルの双剣に戻った。 「俺の影を消し去るその黒炎!それが君の本気だな。…おもしろい、受けて立とう!」 カイルは黒に染まった双剣を構えた。 「なら、遠慮なくやってやろう。黒炎の力を見せてやろう!」 グレンは体全体に黒炎を纏うと、高速でカイルに向かった。 「うぉおお!!」「うぉおおお!!!」 2人の剣が再び衝突しようとしたその時だった。 2人の剣が交ろうとした時と同時にベガに異変が起こり、その場所から大きな爆発音がなった。 「なっ、なんだ?今の音は。」 2人はベガが倒れてる方から聞こえた音に気付き、そっちの方に視線を向けた。 倒れているベガは体から黒い血の様な物が流れていたため、さっきの音はこいつの体が破裂した音だった。 しかし、次の瞬間。その血が地面に染み込むと地面から黒い根が生えてきた。 その根はベガを取り込むと次第に大きくなり、周りにある建物も取り込もうとしていた。 「なっ、なんだあの黒い根は!どんどんおっきくなるぞ!」 「きゃああ!!グレン!助けてぇ!!」 危うく黒い根に取り込まれそうになったミーナは全速力でグレンの元に走った。 「あの黒い血。もしかしたらあの血に含まれた魔力が地面の根っこの養分になって、根っこが異常に成長してるんだ!このままだとこの国ごと飲み込まれるぞ!」 「うそだろ。おい、グレン!あれは流石に俺の黒帝剣技でも止める事は出来ないぞ!どうするんだ!」 カイルは異常な成長を果たす黒い根っこが恐ろしくて焦っていた。 しかし、グレンはこれを見ても動じずカイルにこう言った。 「大丈夫だ。お前、あの根っこの成長を妨げ続けろ。その間俺は魔力を高めておく。」 「はあ!?どうやってだよ!」 「簡単な事だ。お前の絶対領域で根っこを斬り続ければいい。止める事は無理でも根っこが侵食する事はないだろ。」 「それくらいなら出来るが、お前あの根っこの成長を止める事が出来るのか?」 「出来る。だからとっととあの根っこを斬りまくれ!」 カイルにそう言うとグレンは黒炎を刀に纏わせ、魔力を溜め続けた。 そしてカイルもグレンが言った事を信じ、黒い根っこを斬りまくる。 「うおおおお!!!!」 カイルは絶対領域を広げたまま黒い根っこを斬りまくっていた。 しかし、黒い根っこは斬られても成長が止まる事はなく、侵食しようとしていた。 「はぁ、はぁ、うお!!…くそ!なんて成長速度だ!斬っても斬っても追いつかねぇ!フンッ!」 カイルは黒い根っこを斬り続ける手を休める事なく斬り続けた。 しかし、いくら神級魔導師だからと言って魔力がなくなる事は無くても剣を振るう体力がどんどんと消耗していくのは見ただけで誰でも分かる。 「おいっ!…グレン…フンッ!…一体…いつま…で!魔力溜めてるん…だっ!」 「…そうだな…あと、7分は掛かるな。」 「なっ!…そんなに…待てねえよ!」 「待てなくてもいいさ。待てなければこの国の人間全員死ぬだけだ。」 「なっ!?…フンッ!…くそぉ!!…俺は騎士だ!だったら全員護ってやるよ!」 「さすが騎士団団長だな。やる事も言う事も他の騎士とは違うな。」 口ではこう言うカイルも体はもうボロボロで立っているのもやっとの状態だった。 くそっ!…体が思う様に動かせない!…このままだと本当にマズイ… カイルはそう思いながらも歯を食いしばりながら剣を振るった。 しかし、何度も振ってるせいで手に出来た血豆が破れて血が流れ、腕の筋肉が痙攣し始めてきた。 マズイ…腕が震えて感覚が鈍く… 手に力が入らなくなったカイルは誤って剣を一本落としてしまった。 あっ…しまっ…た… その瞬間、黒い根っこの成長速度が一気に上がった。 「やっ…やばい!…くっ!」 カイルは一気に侵食してくる黒い根に焦り、もう片方の剣で食い止めようと両手で剣を強く握りしめた。 「うぉぉぉぉお!!!」 カイルはがむしゃらに剣を振り回した。 手から血が出て、筋肉が痙攣して震えていても剣を振るう事を止めることはなかった。 (あの人間なかなかやるな!騎士団の団長っていうのは根性なしの傲慢なクズだと思っていたがあいつは本物だな。) グレンの中で見ていたリフェルはカイルの必死さを見て感心していた。 「感心してる場合じゃないわよ!このままだとカイルさん死んでしまうわ!」 (死なねーよ。てめーも人間ならよく見てろ。覚悟のある人間の勇姿をよ!) リフェルの言う通り、カイルはボロボロになりながらも諦めてはいない。 この国を護る、そして1人の人間として決して諦めないという心がカイルに力を与えているのだ。 俺は…俺は諦めない!絶対に諦めたりはしないぞ!この国は絶対に……この国を…エミルが愛したこの国を俺は守ってみせる! カイルの頭の中で短い髪をした女性のシルエットが浮かんだ。ウィリディスが使用する魔法属性は空間。空間属性の神級魔法、[デリート・コネクト]。指定した部分に「シフト」と唱えると四角い透明の立方体が現れ囲う事が出来る上に、必要に応じてその立方体を広げる事が出来る。立方体の範囲を自在に広げて囲み、「デリート」と唱えればその指定された範囲を跡形も無く消す事が出来る。例えるならパソコン画面上の矢印カーソルを目的の場所に合わせて範囲指定し、一気にdeleteキーを押すイメージだ。この「シフト」による範囲指定と「デリート」による削除能力を、ウィリディスは現実世界の空間に存在する物質、生物、そしてあらゆる環境を対象に使用する事が出来る。ウィリディスが最初に竜爪の錯林(りゅうそうのさくりん)の木々を一瞬で消し去ったのもこの力のお陰であった。そして。「シフト」「コネクト」ウィリディスは両手を上空に挙げると巨大な立方体を展開し、「コネクト」と唱えた。その範囲は竜の遺跡を全て覆える程。しかもその上空に展開された立方体の中には最初に消し去った森の木がギッシリと敷き詰められている。そう。この木は「デリート」によって消された森の木の残骸であった。「コネクト」とは接続という意味。ウィリディスは「デリート」で消した範囲の木を「コネクト」する事で上空の立方体内に配置したのだ。そう。[デリート・コネクト]は空間を透過的に選んで削除し接続できる魔法。「シフト」で範囲指定した空間を支配する事が可能。そして上空の立方体の底がパカッと扉の様に開かれる。開き始めた隙間から木がどんどん竜の遺跡がある地上に向かって落ちていく。1本1本が大きく質量のある木。落ちる度に地面の砂埃が舞った。まるで雨の様…いや、そんな生優しいものでは無い。逃げ場を与えない広範囲を覆い尽くした木々による酷(むご)い圧殺方法。そして一度に落ちてきた大量の森の木によって竜の遺跡は飲み込まれてしまった。一方、ウィリディスは空間移動で上空に転移しており、木に押し潰され跡形も無く消え去った竜の遺跡の惨状を見下ろして見ていた。「…やっぱり、こんな程度でグレンは死ぬ訳ないか。」見下ろしながらそう言うウィリディス。どうやらグレンが攻撃を回避してる事に気付いている様だ。「出てきなよ。…決着を付けよう。」「紅の悪魔祓い、グレン。」ウィリディスの言葉と共にグレ
「うわぁぁぁぁぁ!!!ガルムが!…ガルムがあぁ!!!」ティアは胴体が分かれ絶命したガルムの上半身を抱きしめながら叫んだ。靴に血が滲むほど急いで走りドグマ達を呼びに行ったティアは決して遅くなかった。しかし、間に合わなかった。「誰が…こんな事を。俺達竜の民をこんな…こんな…。」ドグマは目の前の惨状を受け入れられずにいた。つい竜の試練洞に行く半日前までは普通の平和な生活を送っていた。昨日は龍神の祭日で民の皆んなが共に飲み食いしながら楽しんだ。ティアとガルムはもうすぐしたら祝言を挙げる予定だった。ーー皆んな今日を生き、明日を楽しみに過ごしていた筈なのに。修行が長引かずここに俺達が居ればこんな事には…。「チクショウ……チクショウ!」ドグマの目からはこの場に居なかった自分に対する悔しさの涙を流していた。「……」グレンは2人と違い、この現状をただ茫然と見ていた。それは彼が他人を想う気持ちが無いからでは無い。ここでの生活を思い出していたからだ。不便な生活であったが、他所者のグレンに優しくしてくれた民達。ドグマが言っていた。ここに住む民達は生活の為にそれぞれ役割を全うしながら助け合って生きていた。それぞれが良い人生、良い流れを築く為に。そんな人達が居るここの生活をグレンは好きになりかけていた。一瞬思っただけであるが、故郷の様な平和なこの竜の遺跡にこれからも住みたい。そう少しだけ思えた。それを、こんな…こんな酷い形で終わらされた。まるであの時のキュアリーハートと同じだ。何の脈絡も無く平和な日々を終わらされた。「…許せねえ。」ポツリと小さく、そして力強い声でグレンは呟いた。ーー竜の民達をこんな風にした奴を、絶対に許さねえ!激しく怒るグレンは心の中でそう叫んだ。「あれ?まだ生き残りが居たんだ。」グレン達が向いてる方向とは反対方面から声が聞こえた。グレンとドグマはその声に反応し、振り返った。漆黒のローブを身に纏った緑髪の男と後方には黒い皮膚をした悪魔が20数体、そして他と比べて身長が低い奴が1人居た。すると漆黒のローブを纏った男がグレンの方を不思議そうに見ていた。「赤い髪…その魔力。…もしかして、グレン?」「何で俺の名前を知ってるんだ?」初対面と思っているグレンは突然面識の無い相手に名前を呼ばれた事に驚いていた。グレ
次の日の明朝4時半。この日もグレンとドグマはいつも通り川で魚を獲りに行った。「(もう慣れてしまったな。)」昨日と同じ様に手掴みで流れる様に魚を獲っていく。そして獲った魚を竜の遺跡へと運び、家に戻ってから朝食を食べた。「今日は龍脈樹には行かん。」グレンは朝食を食べた後、ドグマにそう言われ家を出た。この日、グレンはドグマに連れて来られたのは竜の遺跡から更に奥にある祠(ほこら)だった。その祠の入り口前には巨大な竜の像が建てられており、ドクマはその入り口の前に立ち止まった。「何だ、ここは?」グレンは立ち止まったドグマに質問する。「ここは[竜の試練洞(しれんどう)]。竜の民が龍技を極める為に用意された修行の場だ。竜の試練洞。この祠は竜の遺跡で祀られている龍神が、かつて龍技を極めたいと願う者の為に用意した神聖な修行場。数世代にわたり、伝承されてきた場所である。入り口は森の中にひっそりと隠されてあり、入り口から流れる空気が重い。龍脈樹(りゅうみゃくじゅ)の様に祠の中からまるで生き物の様に魔力が渦巻いているのを感じられた。「ここは龍技を極める為に用意された修行場。グレン、昨日説明した竜挐(りゅうだ)を覚えているな?」「ああ。3つの龍技を同時に使う事で起こる龍技の真髄の最終奥義。昨日、あんたが言ってたよな。」「そうだ。[心眼点睛]、[技之乖離]、[戮力体竜変]。この3つを極めた竜の民が使える奥義だ。この竜の試練洞では竜挐を極める為の修行を行う。」そしてドグマは竜の試練洞へと近づいていき、中へと入っていく。入った瞬間、空気が身体に張り付き乗し掛かる感覚がした。心眼点睛を習得してるグレンには周囲に充満している魔力の流れを目で見る事が出来る。試練洞の中に充満している魔力は、上からグレンに圧を掛ける様な流れ方をしている。まるでこの祠がグレンを試しているかの様だった。「生きてるみたいだろ?だが、試されるのはここからだ。」「ふん、だろうな。これくらいは試練の内には入らねえだろ。」「当たり前だ。こんな事で怖気つく様な奴をここに連れては来ない。」ドグマの発言から、この祠は修行場所であると同時に危険な場所なのだと感じた。その理由をグレンはまだ知らないが、すぐ分かる事になる。昨日までの修行が天国の様だったと。「…よし、もう着くぞ。」前を歩く
「いいか、ヒスイ。お前は竜の民の先導者である俺の後継者だ。これから民達を導いていかなければならない。」「………はい。」これは過去のドグマとヒスイのやり取りだ。ドグマは今の様な髭は無く、30代前半くらいの若々しい姿をしていた。そしてもう1人。娘であるヒスイ。彼女はドグマの言われた事を俯きながら元気のない声で返事をした。「竜の民は大昔の北と東の戦争に巻き込まれ、沢山の民達が命を落とした。このままでは竜の民は滅びてしまう。」「何としてでも、それだけは阻止しなければならない。」そう。竜の民が何故この様な少数民族なのか。それは戦争の被害に遭ったからである。丁度北と東の中間地点にある竜の遺跡は戦場に近く、軍事開発された魔法兵器の巻き添えによって多くの民が命を失った。元々少数であったが、それでも300人は居た竜の民も、年々子供の出生率も減少し今では50人にも満たない程だ。このままでは竜の民は絶えてしまう。ドグマはその焦りを感じていた。ヒスイを立派な先導者に育てあげ、竜の民達をこれからも繁栄させなければ。ドグマはその為、娘をより厳しく育てた。「何度言えば分かる!女だからと言って容赦はしない!」ドグマはまだ10歳前後のヒスイと龍技を使った組み手を行い、ボロボロになってうつ伏せに倒れている彼女を叱責する。またある日は同年代の人と遊ぼうとした時に。「……そうか。お前は先導者の道よりも友達と遊ぶ方が大事だと言うのだな。分かった。もういい…お前には失望した。」勿論本当に失望なんてしていない。ヒスイには先導者としての意志を早くから継いで欲しい。その想いから、時には厳しく突き放す様な言い方をした。自分の思い描く道をヒスイも歩めば、きっと竜の民達はこれからも耐える事なく安泰だ。ーー俺の代で絶えさせたくない!ドグマはこの様にヒスイのやる事1つ1つに口を出していた。しかし、ヒスイが19歳の時だった。突如書き置きだけ残し、娘は家を出てしまった。お父さんへ。私は彼と一緒に外の世界へ行きます。お父さんの理想の娘になれなくてごめんなさい。私は、今まで先導者になりたいと思った事は一度もありませんでした。ずっと黙っててごめんなさい。 ヒスイよりそれを見たドグマはようやく気が付いた。竜の民のこれからの未来を見ていたが、1番
ドグマに言われた通り朝の4時半に起きたグレンは、龍技の真髄の修行をする為にドグマの後ろに付いて歩いていた。早朝に起こされたにも関わらずグレンは眠そうな素振り1つ見せなかった。「初日で眠くはないのか?」「ああ。普段からあまり睡眠を取らない方だ。昨日はゆっくり出来た。」グレンは旅をしてる時もそうであるが、いつ自分の身に危険が起きても対処出来る様に熟睡は基本的にしない。その為、グレンにとっては明朝4時半と早い時間に起こされても睡眠時間的には十分であった。「…そうか。この程度なら生意気な口も普通に叩けるのか。よかろう、遠慮はいらんという事だな。」ドグマは余裕そうなグレンに対し、そう脅しをかける。「(そういえば、昔アガレフに修行を付けてもらう時も同じ様な事を言われたな。)」……思い出すだけでゾッとし、血の気が引いていくのが分かる。あの時は毎日失神するまでボコボコにされていたなぁ。アガレフの修行は本当にキツかった。「よし、着いたぞ。」真っ暗だった為、到着するまでどこを歩いているのか分からなかったが数十分後、ドグマが連れてきた場所は竜の遺跡にある川の上流の方だった。「川で修行するのか?」「そうだな。修行と言えば修行かな。足の裾を捲(まく)れ。今から川で魚を捕まえる。」そしてドグマはズボンの裾を膝上まで捲り上げると片足ずつ川に入っていく。そして川の真ん中辺りまで行くと水面の上で手掴みする様な構えをした。…バシャッ!素早く水面に手を突っ込み一瞬で掬(すく)い上げる。手のひらからはみ出そうな大きさの魚がドグマの手に捉えられ、捉えた魚を竹と藁で編んだ肩掛けの魚籠に入れる。そして再び魚を捕まえる構えに戻った。「…何してる?お前もやらんか。」「あ、ああ。」グレンもドグマと同じ様にズボンを膝上まで捲り上げて川に入ろうと右足を水につける。「うっ!……」あまりの冷たさに声が出てしまうグレン。朝方の気温の低い山奥の川の水。冷たくない訳が無い。「冷たいだろ?因みに魔法は一切使うなよ。修行にならんからな。」「…いや、魔法使わないと見えねえよ。」只でさえ冷た過ぎる水に慣れない中、真っ暗な時間帯で水中の魚が見えない。しかも道具は一切使わず難易度の高い手掴み漁。目を凝らして水面を見るが当然見える訳が無い。グレンは困惑してる中、隣でドグマは流れ
時は遡る事3日前。この日はカイル、エミル、ミーナが東の大国に到着したばかりの日であった。しかし、ここは北の大国と東の大国よりも更に北東部の奥にある場所。そこは一般の人が立ち入ると必ず道に迷うとされる竜爪の錯林(りゅうそうのさくりん)]と呼ばれる森林があった。その森林の中にある地面は深い裂け目や溝が幾筋も走り、獣道や細い道がそれに沿って複雑に分岐している。道はまるで生き物のように折れ曲がり、進んだはずの者を同じ場所へ戻し、方角の感覚を狂わせる。異常な磁場がコンパスの指針も狂わせる為、人の五感や魔力の流れを読めない人が立ち入れば一瞬で迷路へと変わる場所。この森林の中に1人の男が歩いていた。彼の名前は紅の悪魔祓い(デビルブレイカー)グレン。彼はレミールでミーナ達と合流したのだが、そこの国民に国を守る様に提案される。しかし、それを拒否したグレンは国民に危害を加えられた挙句、抵抗すると悪魔と言われて非難された。そしてグレンは自分のせいでミーナに危害が加わると考え、自ら1人になる道を選んだのだ。では何故彼が今この森林に居るのか?(おい、いい加減にしろ!いつまで歩き続けるつもりだ?もうかれこれ3日は歩いてるぞ?)グレンの中に居る悪魔、リフェル。本名強欲のマモンが話し掛ける。グレンはこの竜爪の錯林(りゅうそうのさくりん)に立ち入ってからかれこれ3日は経っていたのだ。「……この森、まるで生きてるみたいに場所が変化してる。ずっと同じところをグルグル回らされているみたいだ。」木々に囲まれて複雑に分岐した細い道を辿っていくも、いつの間にか元来た道に戻っている。更に元来た道をよく確認すると木々の形や生え方、地面の裂け目の形が少し違っていた。(何回この道来るんだよ!もう100回くらいこの光景見てるぞ!)「……いや、違う。よく見てみろ。この地面と木の並び方。少し違って見えないか?」(は?そんなもん覚えてる訳ないだろ!)「最初来た時はこの地面の裂け目は3本だった。だが今は2本。木も1本1本捻れてたのが真っ直ぐになってる。」(…長い事同じ光景を見て疲れてんのか?…いや、待てよ…グレン、何が言いたい?)何かに気付いたリフェルはグレンの考えを聞く事にした。「多分だが俺達が前に進めば進む程、木や道の形が変化して最初来た時と同じ光景を見せられる。けど、地面